

浦安市で建具店を営む大塚有朗さん(70)には「もう一つの顔」がある。20年以上、各地の民謡大会で優勝、準優勝と活躍してきた実力者としての顔だ。4月には栃木県の大会で優勝し健在ぶりを発揮。6月7日には各地の優勝者が集まり「民謡日本一選手権」と銘打つ最大の大会「今フェス」に出場、自慢ののどとこぶしを披露する。
4月19日に栃木県日光市で開かれた日光山唄全国大会。朝6時に自宅を車で出発した大塚さんは高速道路で大渋滞に巻き込まれ、予定より大幅に遅れて会場に到着した。着物に着替える間もなく背広姿で歌ったが、男女約150人が出場する中、初優勝に輝いた。葵の紋の付いた日光東照宮の賞状を受け取った。
この二十数年、秋田おばこ節、磯節、信州馬子唄・武田節、足尾石刀節、ちゃっきり節など各地の全国大会での優勝、準優勝が際立つ。「民謡をやっていて本当によかった。自分にとって生きる支えになっている」と大塚さん。
父、忠一さんが大の民謡好きで、建具の仕事場で好きな民謡を一日中テープで流すのを側で聞いて育った。父の下で働き始めた19歳の頃、近くの銭湯で民謡を口ずさむのを聞いて声に惚れ込んだ地元の愛好家が翌日自宅を訪れ「一緒にやろう」と誘った。それがきっかけで本格的に歌い始め、20代半ばから小さな大会に出場。40代になると全国大会の常連に。
大塚さんは民謡の魅力を「きれいな日本語で、歌詞に深い意味を込め、俳句のように情景が浮かぶ。メロディーもよく、飽きることがない」と語る。好きな民謡歌手の節回しを研究し、曲が求める喜怒哀楽を独自に表現できるよう工夫を重ねた。
6月7日の「今フェス2025」は東京・品川区で開催。前年に開かれた各地の大会の推薦を受けた36人が「真の日本一」を競う。前身の大会で約15年前に準優勝した大塚さんは今回、「九十九里大漁木遣り節」を歌うが、地元・浦安の三味線、尺八奏者と組むことにした。「主催者が用意するプロの伴奏でなく、地元の仲間に大舞台の雰囲気を味わってほしいから」と大塚さん。
毎週金曜に地元で教室を開く。クラシックギターの伴奏で民謡を歌うステージも続ける。「民謡の素晴らしさを多くの人に、特に若い人に知ってもらいたい」と訴えた。