「いのちの時間」<第6章> 作・相羽亜季実 第63回千葉文学賞受賞作品

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 早朝の仕入れから戻った良夫は、舟よし食堂から二車線の道路を挟んで向かいにある駐車場に車を止めた。運転席から降りながら見ると、ひかりが店の前を掃いている。荷台から発泡スチロールの箱を出して両手に抱え、良夫は行きかう車が途切れるのを待った。

 ふいに自転車で歩道を走ってきたひょろりとした茶色い髪の男が、ひかりのすぐそばをすり抜けた。驚いて箒を落としたひかりに、男が自転車を止めて振り返る。

「あれ、東條? マジ? すごい偶然じゃん」

 男は笑いながら近づき、前掛け姿のひかりをじろじろ見てから、店を眺めた。

「なに、今はこんなと ・・・

【残り 2562文字、写真 1 枚】



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