
千葉市花見川区出身の直木賞作家、小川哲さん(36)の連載小説が8日付本紙でスタートする。タイトルはフランス語で時計を意味する「オルロージュ」。新聞連載は自身初の挑戦だ。小川さんは「直木賞の『地図と拳』が終わってから初めてじっくり腰を据えて書く長編。いろいろチャレンジしたい」と意気込む。
物語はカリスマ的経営者を中心とした群像劇。若い間に大成したい2人が、光合成の技術を使って建材を作る会社を立ち上げる。「人間が何かを成し遂げたい、成功したいという気持ちやそれを応援する人、敵対する人を描きたい。追い風や逆風がありながら、2人が立ち上げた会社がどういう運命を遂げるのかは一つの見どころ」と小川さんは説明する。
モデルは米国の血液検査ベンチャー「セラノス」がうその技術で投資家などをだました事件。最新作「君が手にするはずだった黄金について」と同様、人間の虚栄心に注目する作品が続く。「小説も一つの虚構なので、現実世界の虚構に興味がある。人間は悪者を他人として処理したがる。人ごとではなく悪を理解することが、悪に対抗する第一の手段なのかなという気がします」
結末は「決まってます」ときっぱり。ただ、プロットを作らずに創作するといい「チェックポイントだけ見えていて、間は僕もどうなるか。書くのが楽しみ」とほほ笑む。
千葉大学教育学部付属小中と渋谷教育学園幕張高に通い、青春時代を本県で過ごした小川さん。子どものころの思い出を聞くと「母親がアガサ・クリスティが好きで僕に読ませようとしてきて、でも僕が読まないから『1冊読んだら500円あげる』と。読んだ後にトリックや犯人を母親に伝えると『ちゃんと読んだね』って500円もらえて、そのお金で(週刊少年)ジャンプを買いに行っていた」と明かす。当時を振り返り「やれって言われたことをやるのは嫌だったけれど、対価があるのは僕の中でオッケーだった」とちゃめっ気たっぷりに話した。
小川さんは時折笑いも交えながら気さくに話してくれた。「どこかで千葉が出てくればね。約束はできないですけど。楽しみにしてください」