


「ネットで東武鉄道の特急券を買いたくても、視覚障害のためパズル認証の操作ができず、サービスを利用できない」。船橋市に住む読者の男性からこんな困惑の声が寄せられた。取材を進めると、千葉県内に特急の路線を持つ鉄道のうち、東武鉄道のみがチケットレス特急券の購入時にパズル認証を必須とするシステムを採用し続けていた。同社は「不正利用防止のためには必要」と理解を求める。一方、デジタル化によって生じた新たな障壁について、識者は「公共交通機関はバリアフリーへの感度を高め、対応する責務がある」と指摘した。
(「ちば特」取材班 島津太彦)
点字校正員の石川龍海さん(34)は生まれつき目が不自由で、見ることは全くできないが、音声読み上げソフトを利用してスマートフォンやパソコンを使いこなしている。根っからの鉄道マニアで、本人いわく「乗り鉄、録(と)り鉄、時刻表鉄」。チケットレス特急券などを購入し、全国を旅している。
多くの鉄道会社ではIDとパスワードなどを入力すれば「ほぼ一般の人と同じように利用できる」とし、会社によっては画像認証がある場合でも個別に問い合わせれば1年間にわたって認証不要となるサービスもある。そのような中で「東武ネット会員サービスだけは事情が違う」と主張。一部が切り取られた画像にピースをはめ込む作業が必要なパズル認証は、読み上げ機能が働かず、ログインできない状態が続いている。
2020年に問い合わせたところ、同社からは「情報を守るためにどうしても必要ということをご理解いただきたい。その代わり、一度ログインすれば30日間は同じ端末での認証は不要」といった回答があったという。
事情は理解しているとした上で、石川さんは「30日間は十分ではない。それ以前に購入したチケットをスマホ画面で提示するよう駅で求められたら、再度ログインが必要となり、自力ではできない」。今夏には浅草と日光・鬼怒川方面を結ぶ新型特急「スペーシアX」の運行が始まり、改めて試してみたが、3年前と変わっておらず、落胆した。
◆企業努力訴え
同社は取材に文書で回答。視覚障害者から申し出があった場合は「個別で対応している」とした上で、対応の内容については「不正利用を防ぐことが重要なため、悪意を持った第三者に利用されないように、手続きについては特段のお知らせはしていない」とする。
パズル認証不要の期間については「セキュリティー面と利便性のバランスを鑑みて30日間が妥当であると判断している」との答え。他の認証方法も考慮した上での判断という。
また、障害者へのサービスは多方面から求められているとし、当事者の視点に立った企業努力をしていると訴えた。
◆専門家「怠慢だ」
県内在住歴のある鉄道ジャーナリスト、枝久保達也氏(40)は、聞いたことがない事例とした上で「他の会社ができているのなら同じように対応するべきで、指摘を受けても改善しないのは怠慢」と手厳しい。
「公共交通機関は、誰でも、どこへでも移動できるのが大前提」と枝久保氏。国基準のバリアフリー以外にも細かい障壁は数多く存在するといい「より感度を高め、対応する責務がある」と注文を付けた。
「最先端を走っているから見えた」と、“デジタルネーティブ”の若い男性だからこそ気付いた問題であるとも指摘。また、障害は誰もが直面する可能性があるとして「特殊ではない問題について、男性は警鐘を鳴らしている」とした。