「いのちの時間」<第3章> 作・相羽亜季実 第63回千葉文学賞受賞作品

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「ええと、東條さん……だったわよね。ひかりさん」

 あっけにとられた良夫と多喜子だったが、ひとまず彼女を店に招き入れた。ひかりは白い杖で前方を確認しながら、少しずつ前に進む。心もち顔を上にあげているのは、耳だけでなく顔のすべてで情報を読み取ろうとしているのだろう。

 手を貸そうとする多喜子の好意を柔らかく断りながら、ひかりは小上がりに腰かけてから靴を脱ぎ、座敷のテーブルを三人で囲んだ。

「はい。東條ひかりです。本日は貴重なお時間をさいて頂き、ありがとうございます」

「ええと……今日はここまでどうやって来たの? 誰かと一緒に?」

「いいえ、一人です。電車に乗って、駅からは歩いて来 ・・・

【残り 2786文字、写真 1 枚】



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