2020年12月15日 05:00 | 有料記事
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「ええと、東條さん……だったわよね。ひかりさん」
あっけにとられた良夫と多喜子だったが、ひとまず彼女を店に招き入れた。ひかりは白い杖で前方を確認しながら、少しずつ前に進む。心もち顔を上にあげているのは、耳だけでなく顔のすべてで情報を読み取ろうとしているのだろう。
手を貸そうとする多喜子の好意を柔らかく断りながら、ひかりは小上がりに腰かけてから靴を脱ぎ、座敷のテーブルを三人で囲んだ。
「はい。東條ひかりです。本日は貴重なお時間をさいて頂き、ありがとうございます」
「ええと……今日はここまでどうやって来たの? 誰かと一緒に?」
「いいえ、一人です。電車に乗って、駅からは歩いて来 ・・・
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